6/2 『「耐発火性を有する高エネルギー密度リチウムイオン二次電池」を実現』
【鈴木の独り言】
『「耐発火性を有する高エネルギー密度リチウムイオン二次電池」を実現』PRTIMES, 5/28, 2026
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000014.000021882.html
SEL(株式会社半導体エネルギー研究所)が耐発火性を有するリチウムイオン電池を開発したという記事だ。正極の安定性を増すことで、リチウムイオン電池の発火リスクを大きく低減出来たという事だが、非常に効果的に働いている様に見える。
リチウムイオン電池の発火事故が度々報じられるが、最大の要因は電解液の可燃性だろう。しかし過去に難燃性、不燃性電解液に挑んできた研究開発がことごとく大きな実を結ぶこともなく今日に至っているのは、その性能とコストだ。代表格であるイオン液体系の電解液だろう。陽イオンと陰イオンで出来ていて常温で液体の化合物であり、難燃性を湿すモノが多い。これを電解液として電池を作ろうとした研究は多く発表されている。イオン液体を使えれば、現行プロセスで電解液を置き換えるだけでその難燃性が手に入るのだから非常に良い物に見える。しかし多くのイオン液体は出力性能が低く、なにより非常に高価だった。その結果が今である。
また発火の問題は電池の暴走反応である。トリガーは内部、外部の短絡や、過充電などである事が多いが、暴走の大きな要因が電解液と活物質の反応と言われている。負極との反応で電解液が分解し、その反応熱が暴走に使われる。正極ではリチウムが過剰に引き抜かれ、結晶系が安定性を欠いて、結晶系が変わってしまう。変わるだけならまだ良いが、その際に酸素を放出し、暴走している系に供給され、電解液の酸化(燃焼)に使われる。この反応が電池の暴走を大きな被害へと引きずり込んでいく。
SEL社はLCO正極に一部NiやMgを入れている。リチウムは充電時に正極から引き抜かれ、LCOであれば通常65%程度のリチウムが引き抜かれた時点で4.5Vを超えてくる。その時、LCOのCoと酸素の層状結晶(岩塩型)構造が崩れ、酸素を放出しつつ結晶系を変えていく。そのとき、SEL社の正極は添加されたNiやMgがリチウムの抜けたサイトに入り込み、層状構造の崩壊を防ぐ効果があるとの事。それによって4.6V程度までリチウムを引き抜くことが出来る。容量向上はこの高電位までリチウムを安定的に引き抜くことが出来る事で実現していると思われる。
このような他元素をドープする方法はNCMの層構造の高電位での安定化(=高容量化)で使われる方法として聞いたことがある。SEL社はそのベースにLCOを使った事がおおきな違いだという事に見える。
現在、スマホなどのハイエンド電池を使う用途にはまだLCOを使う事が確認されているが、コバルトにはそれが抱える地政学上の偏在と人権問題がある。また単に電池の発火リスク低減と容量向上であれば、どうしても全固体電池の方が魅力的だ。燃料となる電解液が存在せず、金属負極を使える全固体電池の方が容量向上も非常に大きい。コバルトを使う必要も無くなる。この技術が拡大する前に過去の物となるリスクはここにある。


